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Contents

ハーバード大学訪問記

2019年5月8日 植松 美幸
(本内容は個人の見解であり,所属する組織を代表する内容ではありません.)

【背景】

 日本では国産の医療機器を創出するための政策が数多く出されており,特にこの10年は大きな変化が生じている.基礎研究,開発,非臨床試験(ファントム,動物試験),品質管理,臨床試験,薬事承認申請,上市,保険収載,ビジネス化といった全体の流れを理解し,製品化をしていくことが求められる.しかし,学ぶべきことが膨大であり,実際に一連の流れを理解しても,製品化できるとも限らない.

【目的】

ハーバード大学医学部 Brigham and Women’s Hospital(BWH)の波多伸彦教授にアメリカでの基礎研究から製品化への成功の秘訣を伺い,日本での応用可能性を探る.

【訪問日程及び場所】

2019年5月6日 10時〜17時半@BWH

  • National Center of Image-Guided Therapy (NCIGT)1
    • NIHの研究施設のひとつとしてBWH内にある.
  • Advanced Multimodality Image-Guided Operating (AMIGO)2
    • NCIGTの所有する研究用手術室である.次の3室にわかれている.1)MRIルーム:3TのMRI(Siemens, Magnetom Verio, Erlangen, Germany)がある.MRIは2の部屋にも天井のレールを使って移動可能である.2)手術室:シングルプレーンのC-arm CT(Siemens, Artis zee, Erlangen, Germany)がある.3)PET/CTルーム:PET/CTがある.月〜木はIRB審査を通った患者を対象とする研究,金は研究者向けのファントムを用いた研究が行われている.
  • Surgical Navigation and Robotics Laboratory (SNRLab)3
    • 波多先生主宰の研究室である.3D SlicerとロボットのR融合によるナビゲーションシステムを用いた基礎研究を行っている.


【主な施設紹介者】

  • 庄野直之先生(Postdoctoral Research Fellow, BWH.東京大学医学部脳神経外科より2018年10月からBWHへ留学中)
  • 波多伸彦先生(Professor of Radiology, BWH)


【今回対象とした研究】

 AMIGOでは2011年8月の開始以来,2000例を超える手術が行われてきた.3D Slicerの開発からスピンアウトした医療機器(ProBX,Hamonus)(前立腺がんのBiopsyを用途とするナビゲーション機器)4の製品化を進め,510(k)の認可を受けた後,現在臨床試験が行われており,症例数を重ねている.  また,別途,最新の手術ナビゲーションシステム,ロボットについては,各開発担当者より説明を受けた.


【基礎知識】

 BWHのような研究型大学においては,NIHからの研究予算を受けて,基礎研究が行われている.ハーバード大学の中でもBWHは単独で全米9位である(2018年)5.  アメリカでは歴史的な成り立ちからして,行政府だけでなく,連邦議会やシンクタンク等による多様な公共政策が行われている.科学技術政策も例外でなく,民主主義的に均衡を取る形で進められる.

【アメリカでの基礎研究の考え方】

アメリカにおける研究とは「仮説検証によるDiscovery」である.

1つのR01(Independent Research Project Grants)型研究において,3つ程度の仮説が立てられ,それぞれ評価していく.その結果により,新たな知見を獲得し,次なる仮説につなげていくことが大事である.仮説には変動がある.その都度,検討を重ねながら,最終的な科学的に求め得る解を導く.

PI(Principal Investigator)のすべきことは,「頭脳プレイ」である.

- PI仮説を検証し,論文を量産することに意味がある.生き延びるためには論文を元手にして,さらなる研究費を稼ぐことが必要である. - PI自身が手を動かし実験することはない.Research AssistantやPost-docの雇用により研究を推進する. - Post-docを育てることもPIとしての評価のひとつである.Post-docには,Early, Mid, Lateのタームがあり,研究者として身につけるべきことをPIは指導する. - 研究型雇用の場合であっても,将来を見据え,教育歴を得ることも考えておく.

いかに早く,効率的に研究サイクルを回すか戦略が必要である.

Grant, Paper, Researchを回していく.新規研究を進める場合,元手となる研究リソースとして9割を利用し,残りの1割で新たな発見をする.完全に新規の研究をすることは手間がかかることであり,十分な環境,体制が整っていないと判断される.

基礎研究は政府からのトップダウン型でなく,研究者側からのボトムアップ型である.

オピオイド対策等,優先課題はあるものの,ほとんどは研究者発のオリジナリティある研究に割かれる.

【NIHによる研究費】

NIHの研究予算規模は大きい.

NIHの歳出予算は392億ドル(2019年)であり,うち8割は大学・病院に配分される.内部研究所には1割程度が充てられる.日本の文部科学省科学研究補助金(以下,科研費)は2,286億円(2018年当初予算)である6.つまり,単純計算で18倍程度の差がある.NIH研究費において最も一般的であるR01は年間2千万円〜3千万円規模で,期間は3年〜5年である.科研費で言うところの基盤研究(S)に相当すると考えられるが,NIH予算は掛け持ちが可である.

R01研究で必要な5つのポイントがある.

Significance(研究課題の重要性),Investigation(研究者の適格性),Innovation(革新性),Approach(方法,戦略),Environment(研究環境)である7.これらを1〜9のスコアで採点する.完全に新しいことを提案するのではない.既存の考え方に立脚した中で立てた仮説が検証され,発見されるための体制が整っていることや,十分に研究を遂行できる方法論であること等,複数の審査員による評価を受ける.なお,体制が不十分である場合等は,審査者より共同研究者の提案もされる.申請は2回行えるので,審査者の意向を踏まえてクリアすれば研究費獲得につながる場合もある.

NIHの研究費はほとんどが人件費に充てられる.

研究者の場合,大学から給与が支払われる場合でも夏休み期間の3ヶ月は給料が出ないことが多いので,その分の給料とする.主に研究費を収入として生きていく場合には,複数研究費を獲得し,エフォートに基づいて配分する.

大学への間接経費は日本に比べると非常に大きい額である.

日本の科研費では間接経費が30%とするのが一般的であるが,ハーバード大学では約70%である.間接経費の割合は各大学により異なるが,多くの研究費を獲得することが大学運営に直結することから,多くの,多額の研究費を稼げる研究者を集めることを大学は必要としている. 事務補助員は間接経費から計上されており,日本で雑務に該当するような作業は事務補助員が担当する.

申請書を書くにあたっては,虎の巻がある.

The Grant Application Writer’s Workbook8は毎年更新され,ネット上で販売されている.2019年度版では単に先行研究があるのでなく,それらの弱点を提案法によりロバストでバイアスのない結果につなげることができるのか示すための計画を立てることが求められている.

【基礎研究と医療機器開発】

研究費を存続させていくために必要なのは「Versatile technology」である.

何かひとつに特化したものでなく,幅広く応用が効くものを作る.

最初に機器開発があるのではない.機器開発が目的であってはならない.

仮説検証のために必要であるために機器開発が求められたのであり,スピンオフしたものが製品化につながる.

基礎研究を進める上で製品化自体に新しさはない.

技術開発は止まっており,その先は品質管理や製販の体制を整えることが求められる.SBIR等の研究費を別途取得し,他の人に任せる.ただし,510(k)申請にあたってはR01で収集してきたデータが使える.

手順書,マニュアルの整備は初期段階から行っておく.

510(k)申請に使える結果としていくためには,R01研究のうちにマニュアル作成,SOPの整備をしておく.機器等の使用法は直接人が会って教えるのでなく,マニュアルを読めばわかるようにしておく.

機器開発には中小企業を支援するSBIR制度がある.

学で進める基礎研究とは別に資金を獲得し,製品化を目的とする人が中心となって進めている.

実はFIHに持ち込むことは誰もができていることではない.

FIHに持って行くためには,研究段階でも臨床にすぐに移行できるような品質管理を進めておくことが大事である.臨床では小出しに使用感を試しながら評価を進める.

論文化にあたり,共著となる場合は,必ず文章を書く.

論文は責任著者である1人が責任を持って書くものなのではない.複数著者である理由は全員が必ず目を通し,部分的にでも書くことが重要とされている. 近年,論文投稿にあたり,分担内容を書く必要がある場合もあるし,研究倫理面でも指導があるが,それが表面的なものでなく,実質的なものとなっている.

【生活について】

ワークライフバランスをコントロールするには,「費用対効果を考慮してワークの選定を行い,無駄を省く」ことが必要である.

時間はどこにいても,誰にとっても同様に刻まれる.結果につながらないことは手をつけない.

ジェンダーのバランスを取ることも大事である.

多くの大学のホームページを見ると,LGBTQについての支援セクションがある.会議の男女参加比も気にすべきところである.女性が研究者をやっていくにあたって,産休等を考えるとケアしなくてはならないことがあり,そのための教育もある.また,女性らしさが本人の意識していないところで弱みになっている可能性もある.女性は自信を持つこと,信用されるような話し方をすること等,テクニックでカバーできることもある.

個々の生活スタイルにワークをフィットさせる方法はそれぞれである.

例えば,会議もzoomを使う等,フレキシブルに開催されており,場所によらず,回数を多くすることで,欠席回があっても挽回できるようになっている.

【まとめ】

ひとりが持てる時間は限られている.基礎研究からビジネスまで,全てをひとりで抱えることは難しいということを認識すべきである.克服のためには専門家集団を形成することが重要である.

自分のスキルを認識し,足りないところは他で補うことを考える.人材センターから人を確保するのではない.日頃から人とのつながりを大事にしておくことで,自分が必要とするよい人と巡り合うことができる.

既存のリソースを大いに活用すべきである.整備された環境があるのであれば,そこを使う工夫をすれば投資額が少なくて済む.

いろんなところで一から同じことをやってもコストの無駄である.より低いコストで,スピード感を持って進めるためによい環境を得るにはどうすべきか,常にそういう意識を持つべきである.

【最後に感想】

  •  日本ではアメリカに倣い,研究にまつわる状況に変更が生じている.日本でも似通ったシステムがある.エフォート配分,オーサーシップ,ワークライフバランス等,日本だけにいるとなぜか急にされられて,とりあえずやっておこうといった表面的な模倣になりがちである.
  •  波多先生の解説はとてもシンプルかつクリアで,これまで何となく感じる程度であったことをしっかりと理解することができた.アメリカの歴史的背景も含みつつ,なぜそのような仕組みがあるのかまで,深く知ることができ,それらの意義についての理解も深まった.すべての精神はDiscoveryに尽きる.これを学べたことは非常に大きな収穫だった.
  •  波多先生が所属する研究グループのミーティングも見学されていただいたが,決断のスピードが早く,会議時間にも無駄がない.日本の会議は結論を事前に考えておき,了解を取る.そのために多くの時間を割いているのが私の現状である.会議に対する意識も変えていきたいと思う.
  •  研究だけでなく,日常生活においても,コストパフォーマンスを重視するのだと思った.ライフにおいて家族は何よりも優先であるという考えのもとに,他の事象についていかに理論的に捉え,スピード感を持って進めていくのか.自分に欠けていて,ずっとモヤモヤしていたところはこれで解決できそうだと感じた.
  •  ハーバードでの一日はとても濃密で有意義な時間であり,この先の希望につながった.


【謝辞】

 波多先生をはじめ,プランを立ててくださった庄野先生,技術解説をしてくださったフランクリン,正木さん,また手術室での研究を見せてくださった徳田先生,ペドロ,多くの人のご支援をいただきました.お忙しい中,私のために時間を割いてご対応くださったこと,とてもうれしく思っております.ここに深く御礼申し上げます.

【関連リンク先】

1) https://ncigt.org/
2) https://ncigt.org/amigo
3) http://snr.bwh.harvard.edu
4) https://harmonus.com
5) https://www.genengnews.com/a-lists/top-50-nih-funded-institutions-of-2018/
6) https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2018/FR/CRDS-FY2018-FR-05.pdf
7) https://www.youtube.com/watch?v=lzBhKeR6VIE
8) http://www.grantcentral.com/workbooks/national-institutes-of-health/